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英語コースSA激励会における学部長のスピーチ(要旨)

2021.02.05

Study Abroadの始まりを前にして、皆さんの期待は失望と不安に変わってしまいました。皆さんがSAを夢見てこの一年間本当に頑張ってきたにも関わらず、現地に行けずオンライン留学となってしまったことは、私たちも残念でなりません。

 

ヨースタイン・ゴルデルの『カードミステリー――失われた魔法の城』で、父親が息子に、今、君がここにいるのは、何千人もの君の先祖が、中世の時代ペストで命を落とすことなく生き抜いたからだと語る場面があります。皆さんが今、ここにいることは、皆さんの何千人もの先祖の一人一人が、疫病、戦争、自然災害など、様々な困難を乗り越えて生きてきたことの証です。辛い時には、皆さんの名もなき先祖が克服した数々の苦難に思いを馳せてみてください。そうすれば、皆さんも今の困難をきっと乗り越える勇気が湧いてくるでしょう。

 

また、同志社の創設者新島襄がアメリカに行くまでの時間を思い起こしてください。新島は江戸の安中藩邸で生まれ、21歳で脱国をするまでの期間をそこで過ごしました。江戸の藩邸は周囲を家臣たちの屋敷に取り囲まれた正方形の囲い地であったと、新島は回想しています。新島は17歳から藩邸で祐筆職(文書作成係)として働きますが、西洋のことを知りたいという欲求を抑えられず、オランダ語を習得して貪欲に知識を吸収していきます。新島がその後の人生において成し遂げたことの基礎は、この安中藩邸の小さな世界で過した時代に築かれたと私は考えます。尽きぬことのない知への欲求や社会を変えたいという熱い思いは、それが叶わぬ時間を過ごしたことで、より一層強くなり、その後の彼の人生を支えたのです。

 

皆さんもどうか、新しい世界で多くの人々と出会い成長したいという思いを大切に、これからの時間を過ごしてください。思いが叶わない時間がある分、それが叶ったときには、数倍、数十倍の力で多くのことを吸収できるでしょう。その日が一体いつになるのか――残念ながらわかりません。半年先なのか、もしかしたらその時点でもまだ駄目なのか、今の段階で答えてあげることはできません。でも、いつかその日がきっと来るはずです。

 

「君がどんなに遠い夢を見ても、君自身が可能性を信じる限り、それは手の届くところにある」とは、ドイツの作家ヘルマン・ヘッセのことばです。ここで言う「夢」とは、皆さんがこの将来どんな人になりたいか、どんなことを成し遂げたいかという夢です。今、SAに行けないのは、どうすることもできないことです。けれども、皆さんが見る「夢」は、今SAに行けないから消えてしまう、そんな脆いものではないはずです。今できないことよりも、今できることに集中して、一歩ずつ「夢」に向かって歩んでください。私たち教職員も、そんな皆さんの学びを見守り、支えたいと思います。