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トップページ ニュース一覧 第32回(2024年7月26日)

リレーメッセージ

Messages

「世界へ通じる対話力。」をキーワードに教員がさまざまなテーマについて、
それぞれの視点でコラムを執筆します。

第32回(2024年7月26日)英語コース岡﨑 享恭准教授

今回のテーマは英語コースの岡﨑享恭准教授による「変容する「世界」との対話」です。「世界」と対話する際にみなさんはどのような視点をもつことが大切だと思われますか?岡﨑先生は、「land acknowledgement」という概念に注目し、 歴史に向き合うことの大切さについて述べられています。是非岡﨑先生からのメッセージをご覧いただき、変容する「世界」と対話する際に大切な視点について考えてみてください。また、みなさんがこれまで大切にされてきたものに思いをはせていただければ幸いです。

変容する「世界」との対話

これまでの先生方のコラムを読ませてもらい、様々な視点で、個人が、特に学生の皆さんが、益々グローバル化する社会の中で、どのように対話力を身につけるかということが書かれていると感じました。僕からは、別の視点でメッセージを送りたいと思います。端的に言うと、「世界で対話」をする際に、持っておくべき視点です。

皆さんは、“land acknowledgement”という言葉に触れたり、実際にこれが行われる場に身を置いたことはあるでしょうか。日本語にすると「土地と伝統的所有者への感謝と敬意」という意味になりますが、英語圏の国々、特にカナダやオーストラリア、ニュージーランドやアメリカで、様々な行事や会合が開かれる際の冒頭に、この“land acknowledgement”が行われます。

GCがSA(Study Abroad)先として送り出している英語圏の大学のほとんどには、このような“land acknowledgement”や、それに準じるメッセージ、行動があります。それぞれのSA先のホームページを見てもらえればと思います。一例として、オーストラリアのディーキン大学のものを紹介します。

私たちは、ディーキン大学が活動を行っている、未譲渡の土地と水路の伝統的な守り手に感謝します。私たちは、私たちのキャンパスがあるWadawurrung、Eastern Maar、Wurundjeriカントリーの先祖と長老に深い敬意を払います。また、私たちの学習コミュニティに貢献するすべての先住民族にも敬意を表します。
(大学メインページより  https://www.deakin.edu.au/)

私たちのビジョンは、多様性を尊重し、祝福する大学、つまり、すべての学生がアボリジナルやトレス海峡諸島民の知識、文化、価値観を尊重する大学を作ることです。ディーキン大学では、これを大学全体の責任と捉えています。
(大学Youtubeサイトでも閲覧可能https://www.youtube.com/watch?v=SF65qrAAEwU

ここで挙げられているように、多くの“land acknowledgement”は、まずこの未譲渡(unceded)の土地という言葉から始まります。大学の地は、未譲渡の土地、つまり先住民族の視点に立てば、譲り渡した覚えのない土地です。 “land acknowledgement”はそうした土地、つまり植民主義により奪った土地の上に、自分たちの学びが成り立っていることを認める行為なのです。

またカナダのブロック大学も以下のように認めています。

ブロック大学は、私たちが集うこの土地が、HaudenosauneeとAnishinaabeの伝統的な領土であることに敬意を表します。その人々の多くは、今日もこの地に住み、働き続けています。

先住民族と彼らの土地に敬意を表することは、私たちの豊かな暮らしが先住民族に直接大きな被害を与えた植民主義の遺産であることに気づかせてくれます。長年の歴史のなかでどのような経緯で私たちがこの土地に住むようになったのかを理解することは重要です。その歴史の中で一体私たちがどのような立場にあったのかについて理解を深めなければなりません。

植民主義が現在も進行中の問題であることを私たちは知っています。つまり、私たちはいまその植民主義に加担しているのです。そうした認識をより深め、脱植民化に向けて起こっている現在の動きをどう支援できるのか-その有意義なやり方を見出さねばなりません。
(大学ホームページよりhttps://brockgsa.ca/land-acknowledgment/)

このような“land acknowledgement”も、ただその言葉を読み上げるだけで行動を取らなければ、表面的な体裁だけを整えた形式主義でしかないなど、様々な批判が存在します。しかし例えばこのブロック大学では、地元の先住民族教育のコミュニティと10年間の対話を重ねる中で、このような文言が決められたそうです。過去存在しなかった「対話」をここではしっかりと重ねて、一語一語決められていったわけです。

皆さんのSA先の英語圏大学のほとんどが、過去10年の間に、植民主義の反省に立ち、自分たちが立つその土地の先住民族と対話を重ね、また対話を今後も継続するために、このような“land acknowledgement”のフォーマットを作っています。

さらにブロック大学の“land acknowledgement”は、自分たちが何者であるか、歴史の中での自分の立場を理解すること、現在に続く植民主義の影響の理解を深めることの重要性が指摘されています。私たちは、日本の大学関係者として何を理解する必要があるのでしょうか。

大航海時代に始まり、20世紀まで続いた宗主国による植民地支配。欧米近代国家では先住民族の土地はその国家の内部に取り込まれ、内国植民地となりました。そして、植民主義が十分に清算されることがないままに、経済市場のグローバル化によって多国籍企業が世界の市場を支配する新たな「植民主義」が生まれ、私たちはその真っ只中にいます。

ヨーロッパの列強がアフリカ、アジア、新大陸を植民化した上に、英語の広がりがあります。英語がグローバル言語であるのはこうした事情ともかかわっています。その言語を私たちは教え、学んでいます。

日本はヨーロッパに倣い、列強に追いつけ追い越せと、アイヌ、琉球を内国植民化し、収奪していきました。そして私たちは今も、その北海道や沖縄からの恩恵を受け続けています。このような歴史の連鎖を、テッサ・モーリス=スズキは、「連累」と呼びます。連累とは分かりやすく言えば「かかわりあい」ですが、彼女が言う「連累」はもっと深いものです。

「連累」とは以下のような状況を指す。わたしは直接に土地を収奪しなかったかもしれないが、その盗まれた土地の上に住む。わたしたちは虐殺を実際に行わなかったかもしれないが、虐殺の記憶を抹殺するプロセスに関与する。わたしは「他者」を具体的に迫害しなかったかもしれないが、正当な対応がなされていない過去の迫害によって受益した社会に生きている。

“land acknowledgement”はまさにこの連累を私たちに気づかせてくれます。GCができて、10数年。私たちのパートナー大学は、“land acknowledgement”を通して、このように地元の先住民族の「世界」との対話に関わり出した時代です。このような変容の時代に、私たちが「世界へ通じる対話力」と言う際、その「世界」は何を、誰を指すのでしょうか。いわゆる英語母語話者の「世界」や、様々な国や文化から集まるビジネスの「世界」と言う強者エリートの「世界」だけでなく、歴史的なグローバル化の大打撃を受けつつも、存続する先住民族の「世界」。日本のアイヌや琉球、現地の先住民族のダイナミックで多様な声に、自身の価値観を一旦棚上げして、耳を傾けることこそが、Global Communicationに求められる「世界へ通じる対話力」の一つではないでしょうか。そしてこの視点を持つことができれば、変容する「世界」、例えばパートナー大学やその他の人々とも通じる対話ができるのではないでしょうか。

参考文献
テッサ・モリス=スズキ (2013)『批判的想像力のために : グローバル化時代の日本』平凡社