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リレーメッセージ

Messages

「世界へ通じる対話力。」をキーワードに教員がさまざまなテーマについて、
それぞれの視点でコラムを執筆します。

第4回英語コースベティーナ・ギルデンハルト准教授

前回のリレーメッセージでは「語学教育」のメッセージを紹介いたしました。グローバル・コミュニケーション学部の各コースでの「語学教育」は一つの語学のみが対象となるわけではありません。あなたも複数の言語を楽しみながら世界中の人々とコミュニケーションを図りませんか!
リレーメッセージ第四号は「多言語」について、英語コース着任予定のベティーナ・ギルデンハルト准教授からのメッセージです。

第二外国語学習の意義:多言語主義のススメ

「英語でさえサマになっていないのに、さらにドイツ語?」と第二外国語の学習に対して疑問や不安を感じる学生がいるようです。確かに、二つの外国語を同時に学習して、最初はいささか混乱することもあるかもしれません。例えば、ドイツ語の授業を受けた直後、英語を話そうと思ったら、頭がまだドイツ語モードで、”I”と言おうとしたら、思わず “Ich” と言ってしまうなど、切り替えがすんなりと出来ないこともあります。しかし、それは最初の段階だけです!そのうち、相手と場所に応じて、使い分けが自然に出来るようになります。東京に勤めている関西出身の人が、関西弁と標準語とを両方駆使することができるように、多数の外国語も話せるようになります。

考えてみれば、「方言」が使われる地域で生まれ育ち、家族とはその言葉で、学校では「標準語」を話す多くの人々は、すでにある意味では多言語主義を実践しています。「標準語」は日本語の共通語でありながら、「方言」こそ自分らしさを表現するためにはなくてはならいものだと感じる人が多いはずです。様々な方言が存在する「日本語」の豊かさを保つことが大事であるのと同じように、世界的なレベルでも多数の言語の共存を保護することは重要です。一つの言語のみが世界を支配するのは、芳しいとは言えない状態です。もちろん、英語の国際共通語としての利点は決して軽視すべきではありませんが、英語が国境を越えて普及してきた歴史の背景となるもの(19世紀のイギリスの帝国主義、20世紀における米国の政治的・経済的・軍事的支配力)、それによる土着語の抑圧や言語・文化的画一化などのデメリットも忘れてはいけません。その傾向に抗うために、母語(+方言)と英語のほかに、少なくとももう一つ外国語を学ぶことが必要です。

言うまでもなく、第二外国語の学習はグロバル・コミュニケーション能力の前提でもあります。というのも、世界を「多角的に」見るためには、様々な情報起源を確保することは不可欠です。たとえば、ドイツ語のWikipediaには英語のWikipediaに載っていない情報がたくさんありますし、政治問題に関しても、英語による報道と英語以外の言語による報道ではかなり論調が違います。状況を自分で判断できるようにするためには、決して母語と英語のみの情報起源には頼ってはいけません。

第二外国語をしっかり学習すれば、世界の多角的な見方だけではなく、学習上必ず相乗効果も生じます。例えば、「英語」と「ドイツ語」の場合、多くの単語がラテン語という共通の語源を持っているので、勉強すればするほど、両言語の語彙が自ずと増えます。そして、ドイツ語にせよ、フランス語にせよ、中国語にせよ、英語と第二外国語を同時に勉強することによって、語学を効率よく楽しく学ぶコツも掴むようになります。

言語の多様性というテーマに関して興味が沸いてきた人には、フィンランドの言語学者・Tove Skutnabb-Kangas氏とイギリスの言語学者・Robert Phillipson氏(二人は夫婦です!)の著書をお勧めします。「多言語主義」の先駆的な提唱者であるこの二人は、人間の平等という「人権」概念を言語に適用して多数派言語に対して、少数言語の「言語権」を唱えています。例えば、”Linguistic Human Rights – Overcoming Linguistic Discrimination”(1994年出版)とか”Linguistic Genocide in Education – or worldwide diversity and human rights?”(2000年出版)とか。

題名を見れば分かるように、これらの著書は端的に現在の言語の状況を物語っています。著者は英語の支配に対して少数言語の権利を「英語」で出張しています。広く読まれるためにはそうするしかないのです。矛盾のように見えるかもしれませんが、皆さんのこれからの語学学習のための示唆も含まれています。つまり、すでに英語を避けることは出来ない世の中になっているからこそ、英語を駆使しながら、英語の世界的な支配力に対抗しましょう!第二外国語をしっかり学んで、多言語主義への第一歩を踏み出しましょう!