要領よく取り組んで短時間で望む結果が出たら、嬉しいですよね。就職活動も、第一志望の企業から早々に内定をもらうことができたら、理想的でしょう。反対に、なかなか内定が出なかったり、“お祈り”続きだったりしたら、意気消沈しますよね。しかし、就職や仕事に関する限り、目の前の結果をすぐさま良かった(或いは、悪かった)と結論づけるのは早すぎやしませんか、というのが今回のテーマです。
*キャリアこそ人間万事塞翁が馬
何故そのようなことを言うかというと、私自身が現在の仕事にたどり着くまでに似たような体験をしたからです。学生時代、私はマスコミ志望でしたが、出版社の最終面接で落ちました。やむなく別の業界に就職し、営業として働くことになります。充実した日々でしたが、心のどこかに、“自分は就活に失敗した”という敗北感がありました。その後、紆余曲折を経て、留学生向けの日本語教育に携わることになるのですが、最初に大学の専任教員として採用されたのは、営業職経験を活用した教育実践が評価されたからでした。こうなると、自分の就活は成功だったの??と当初のマイナス評価を逆転せざるを得なくなります。他にも失敗や挫折はいくつもしましたが、振り返ると、失敗したおかげで後に成功したと思うことがしばしばありました。得られた結果を失敗もしくは成功と結論づけられるのは、その時々ではなくて、ずっと先、もしかしたら人生が終わる時ではないかと歳を重ねて思うようになりました。
*予測のできない時代の新社会人
更に、ここでもう一つ、考えて欲しいことがあります。それは、私たちを取り巻く社会の変化です。巨大地震やパンデミックの到来、DX化の推進など、日本社会は今、大きな転換点を迎えています。新卒で入社して定年まで勤め上げる日本型雇用が主流の時代なら、3年後、10年後の自分がどうなるかは先輩や上司を見れば簡単に予想できたでしょう。しかし今や、多くの日本企業があらゆる側面で大きな変革を迫られています。働く人々の多様化も進み、万人に共通する分かりやすいキャリアパスは希薄です。皆さんは、この不透明な時代にキャリアを築いていくことになります。
*ハプスタンス・アプローチ
キャリアに関する有名な理論の一つに、J.D.クランボルツという研究者の「ハプスタンス(happenstance)・アプローチ」というものがあります(Krumboltz, John D. & Levin, Al S. , 2004 花田・大木・宮地訳2005)。ここでは、キャリアや人生が予想外の出来事によって大きく発展することがあったら、それは人間の力が及ばない運命に依るものではなく、本人の日頃の行動や考え方が幸運を引き寄せたから、と考えられています。クランボルツは「幸運は偶然ではない」と言いました。彼によると、変化の大きな時代にキャリアを発展させるには、新しい挑戦や提案に対して常に前向きで、結果が予測できなくても失敗を恐れずに行動を起こしてチャンスを切り開こうとする姿勢が重要なのだそうです。クランボルツが示す具体例の人々は皆、たまたまが重なって満足できる仕事に就いたわけではありません。彼らは、想定外の出来事は機敏に利用し、間違えても折れない心で失敗に学び、さまざまな方法で「幸運」に至る伏線をつくっていました。無意識のうちに「幸運」という偶然が実現するように行動していたのです。
*常に学んで変わることを恐れない
就職活動でどこの企業から内定を得たかは、良かれ悪しかれ、一過性の評価です。ましてや、現在のように変化のスピードが速い時代においては、過去の成功体験にこだわり続けて変わらないことが人には最大のリスクになるでしょう。クランボルツは、どんな仕事も「学びの経験」とし、あらゆる機会から学び続けることが、変化する時代に働く人材としての自分を強くする、と付け加えています。大学卒業後、入社企業で理想の仕事に出会えたらベストですが、あいにくそうでなかったとしても、日々学んで経験とスキルを増やし、職種や環境という選択肢に対して常にオープンであれば、「計画された偶然」はいつか必ず皆さんの前に現れるはずです。