僕は教科書が大好きです。10年前から日本で教師として使っているフランス語の教科書の内容も、高校(フランス国立)1年生の時(1999年)学び始めた日本語の教科書(『日本語初歩』国際交流基金、1985年発行)の内容も今でもよく覚えています。フランス人の僕が中学1年生時から英語(必須科目)を学び始め、中学2年生時から第2外国語(必須科目)としてドイツ語を学び始め、そして柔道家でもある僕がラッキーなことに高校1年生時から第3外国語(選択科目)として日本語も勉強できるようになりましたが、不思議なことに記憶に残っている教科書は日本語のものだけです。言うまでもないかもしれませんが、1999年のフランスで日本語を勉強したければ、需要がほとんどないためフランス語で書かれた日本語の教材がなく日本で出版された100%日本語で書かれたMade in Japanの教科書を使うしかありませんでした。高校入学までに使った英語の教科書とドイツ語の教科書は例文も多く文法の説明も明確にフランス語で解説されていたはずですが、なぜか中身が全然記憶に残っていません。しかし高校で使い始めた日本語の教科書の中身は今でもちゃんと記憶に残っています。例えば:
はじめまして。わたしのなまえはジョン・スミスです。
にほんじんではありません。アメリカじんです。
上記の文章は第1課か第2課で紹介された内容で、勉強が進むとひらがなとカタカナに漢字が加わって:
初めまして。私の名前はジョン・スミスです。
日本人ではありません。アメリカ人です。
そして、この文章が読めるようになった時点で(勉強し始めて半年ぐらいの時かな?)、「俺すごいじゃん!日本語が解読できてるんだ!」と思った時のワクワク感を思い出すと今でも笑顔が浮かび上がります。それは、当時(1999年)北フランスの田舎で日本語を勉強して、「いつか日本語が喋れるようになりたいなぁ」と思っていたなら教科書で紹介された文章で練習するしかなかったからです。幸いなことに高校の日本語の先生(恩師)のおかげで、高校3年生、17歳の時、東京で2週間のホームステイをすることができました。その際、教科書で習った文章を毎日一生懸命使い、「早く行かなければなりません!」や「寒いですね!」は口頭日本語では「早く行かなきゃ!」や「寒っ!」に変わることに対して驚きましたが、「すみません、もう一度ゆっくり言ってもらってもいいですか?」はほぼ教科書通りで使える表現だと肌で深く感心しました。
その後ホームステイから戻り、高校を卒業して大学でも日本語を(専攻で)勉強し続け、大学3年生の時ワーキングホリデーで山梨県のブルワリーで1年近く働いて、毎日のように「教科書」+「漫画」+「職場のお客さんや同僚とのリアルな会話」を繰り返したら徐々に(日本語学習開始6年目の時!)日本語でコミュニケーションが取れるようになりました。
というわけで(笑)、僕がキーワード「対話力」を読んで、不思議なことに「教科書」という言葉が浮かび上がりました。「対話」といえば、「口頭」または「オーラル・コミュニケーション」を思うのが当然でしょう。しかし、ここ数年は特に、COVID-19の影響で、外国人相手に外国語で話しかける機会が減少した中、多くの学習者が授業で体験できた「対話」は教科書が紹介していた(提示していた)内容のみでした。フランスで出版されたフランス語の教科書であっても、日本で出版された教科書であっても、それらを用いる先生たちと使用する学生たちによって「対話」に対して様々な解釈が生まれて当然でしょう。
第2外国語教育/学習の本来の姿であれば教科書の中で紹介されている「会話例」を読解・聴解・教室内での口頭練習(ペア・グループなど)で習得したあと、その内容を個人の経験や趣味に当てはめてアレンジします。そしてリアルなフランス語母語話者にその会話例を口頭で「教室外」でぶつけるのが自然な流れだと言えます。しかし、この3年間はリアルな対話相手が見つけにくかったため、対話ができるのは紙媒体や補助教材(視聴覚教材)のみになってしまいましたね(*リアルタイムでZOOMなどを使って海外の大学の講義や海外にいる母語話者との会話を楽しんで、国内留学が大成功で終わった大学生もいますが、高校生は残念ながら少なかったでしょう)。その大変な3年間の中で教員として(また教材開発者や視聴覚教材制作者として)最も助かったのは教科書の存在でした。海外に行けずに国内にいながらも、いかに効率良くフランス語をオンラインで勉強できる教材をどのようにして作れば良いかについてよく考えることができました。またこの3年間は教科書の中に潜んでいる「学生のモチベーションのスイッチをONにできる窓」をどのようにして探せば良いかについても考えるきっかけになったので良かったと思います。
最後に、GC学部の強みであるStudy Abroadを経験しているGCの学部生たち(卒業生も含めて)が海外で出版された英語の教科書を用いて、様々な異なる環境でそれらを使用する教員と現地の学生たちと対話してきたに違いありません。そして、その対話がオーストラリア・イギリス・カナダ・アメリカ合衆国・ニュージーランドで行われたことによって、同じ教科書を使っても学生一人一人の記憶や感想は違うはずです。機会があればぜひOB,OGたちに聞いて欲しいです:
海外で使った教科書のどこが面白かった?どこが気になった?
どの表現がリアルライフで一番役に立った?
海外留学が再びできるようになった現在、教室外において外国語でSNSを使い、無料(有料でも!)の動画配信のプラットフォームでドラマや映画も好きな外国語で簡単に観られるようになった2023年では、教科書は「対話」への飛び台に過ぎないかもしれませんが、1999年と同じように教科書にはまだまだ面白い「窓」が見つけられると思います。探検する時は何語でも良いので、ぜひ一緒に探してみませんか?
私の名前はジスラン・ムートンです。
日本人ではありません。(日本語の教科書が大好きな)フランス人です。