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2024.03.07
グローバル・コミュニケーション学部
日本語コース3年 ジョ ヒョンハ
2022年10月11日、コロナウイルスで制限された外国人の新規入国が約2年ぶりに解除された。入国制限の解除により、年間24万5900人まで減少していた訪日外国人観光客の数は速い速度で回復している。
図1 「2023年訪日外客数・出国日本人数」日本政府観光局(2023年)
私は2022年の5月末から来日し、入国制限があった時から留学生活を始めたため、制限された時と解除された後のギャップを多く感じている。特に、最近は、河原町や清水寺のような主要観光地に行くバスは大体混雑し、並んでいても一回でバスに乗れず、次のバスを待つ必要があるほどだ。このような経験から、「オーバーツーリズム問題」について興味を持つようになり、住んでいる京都の現状はどうなっているのかについて調べたいと思った。
ここで「オーバーツーリズム」とは何であろうか。UNWTO(世界観光機関)は、これについて、「観光地やその観光地に暮らす住民の生活の質、及び、もしくは訪れる旅行者の体験の質に対して、観光が過度に与えるネガティブな影響」と定義づけている(UNWTO、2019)。
さらに、高坂(2019)は、オーバーツーリズムが、観光地の環境容量(Carrying Capacity)を超過した観光資源の過剰利用(Overuse)により様々な問題をもたらすと述べている(高坂、2019)。要するに、オーバーツーリズムは、その観光地が受け入れられる規模以上の観光客が押し寄せることにより起こる弊害のことである。ただし、この環境容量は物理的に定められているのではなく、地域住民の感情により増減するため、外国人観光客を歓迎している人の数が少なくなると、オーバーツーリズムの問題が起こりやすくなる(高坂、2019)。
奈良・前川(2019)は、京都のオーバーツーリズム問題の詳細について調べるため、観光客の殺到における生活の変化を調べるアンケート調査を行った。その結果、地域住民の80%以上が、公共交通機関の混雑で混乱していると答えた。観光客の増加による悪影響を問う他の設問でも、公共交通機関の混雑とそれに伴う移動時間のロスが指摘された(奈良・前川、2019)。
このような問題に対し、京都市は「バス1日券」の販売を2023年9月末で終了し、バスだけでなく市営地下鉄でも利用できる「地下鉄・バス1日券」のバス車内での販売を始めた。(NHK,2023)地下鉄の利用も促し、移動手段を分散させることで、混雑の解消を図るということだが、地下鉄路線自体が足りないため、その実効性については未だに把握されていない。地域住民にとって交通インフラの不足が最も大きな問題であることが明らかとなったため、交通インフラを再構築すべきだという意見も高まっている。
なぜ、京都は他の地域よりも「公共交通」が問題になっているのだろうか。その理由について、奈良(2019)は、「京都市は市街地が狭く、観光地と商業地が隣接していることでより混雑が発生しやすくなっていること」(p.23)と「京都市内は電車の路線が少なく、市民・観光客双方の移動手段が市バスに偏っていること」(p.23)の二つを大きな要因として指摘した。
それに加えて、私は、京都市バスは距離に関係なく230円で電車より運賃が安いため、バスに人が集中するのではないかと予想した。以上の研究結果から、市民にとって交通インフラの不足が大きな問題であることが明らかになっている。交通インフラを構築することが望ましいという指摘がある中で、京都市内の現状はどうなっているのであろうか。
図2「京都市内主要ホテルにおける客室稼働率」京都市観光協会 (2023年6月)
図2は、京都市内の主要ホテルにおける客室稼働率を示したものである。グラフによると、京都は春と、秋に観光客が集中されていることが分かる。このように、観光客が特定の季節に集中しているため、バスを増やしてもそれを維持することが難しい状況である。
その代替案として、市内の地下鉄の活性化を促すことも難しい状況が続いている。その理由として、日経新聞(2021)は、京都は東京や大阪・神戸など他の都市に比べ、埋蔵文化財が多く発見されているからであると述べた(日経新聞、2021)。埋蔵されている文化財が建設中に発見・破壊される恐れがあり、大規模のインフラの整備や再構築を行うことが難しいということである。さらに、文化財の維持・保存も京都市の大切な施策の一つとして取り上げられているため、工事の費用も高くなる。そのため、仮に地下鉄の路線拡張が実施されたとしても、再びバスより高い料金を支払わなければならないという問題が生じてしまう。このような理由で、交通インフラの不足が明らかになっているにも関わらず、解決は難しい状況である。
観光は、京都市の基幹産業の一つである。京都市独自の推計によると、観光による税収効果は390億円(市税収入の12.8%)、雇用効果は15万3千人(全雇用者の5人に1人)で、京都の産業に占める割合は12.4%と全国平均の2.7倍になっている(京都市情報館、2023)。
そのような京都市の観光産業をより発展させるためには、交通システムを含む「暮らしの利便性」を向上させることが最優先であると考えられる。また、資料を調査しながらこれら以外にも観光が地域に好循環作用をもたらしていることが分かった。
以上の内容から、京都の観光産業は地域住民の生活とも深く関連していることが明らかになった。入国制限の解除により、外国人観光客は増加しているが、観光客の増加による住民の不便はまだ解決されていない。高坂(2019)の主張のように、外国人観光客を歓迎する人の数が少なくなると、オーバーツーリズム問題が起こりやすくなる(高坂、2019)。持続可能な観光を実現するため、京都市は現在発生している交通問題を素早く解決する必要があると考えられる。
しかし、上記したように、様々な要因により、直接的に地下鉄の路線やバスの車両を増やすなどの解決方法は採用されにくいと考えられる。その代わり、春と秋に観光客が集中される分、夏と冬の観光客を増やす方法を模索することや、交通が集中される観光地以外の魅力的な観光名所を開発することを通じてこのような問題が解決できるのではないかと考えた。そして、同志社の学生として、今後、関連する内容についてより詳しく調査・考察し、新たな施策を発信することで、京都市の更なる発展に貢献したいと思った。
【参考文献】
観光庁(2019.06.10)「持続可能な観光先進国に向けて」
https://www.mlit.go.jp/common/001293012.pdf (参照 2023-12-20)
NHK(2023.10.03)「オーバーツーリズム 混雑する公共交通機関 対策は」
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kyoto/20231003/2010018568.html (参照 2023-12-18)
日経新聞(2021.7.10)「京都の地下鉄運賃なぜ高い? 埋蔵文化財で工費かさむ」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF285U80Y1A620C2000000 (参照 2023-12-18)
テレ朝news(2022.01.19)「訪日外国人旅行者 過去最低の24万5900人 コロナ前よ 99%以上減 観光庁」https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000242101.html (参照 2023-12-19)
山下裕明(2022)「住民の歓迎度からみるオーバーツーリズムに関する一考察―京都市でのアンケート調査の結果より―」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jitrproceedings/37/0/37_153/_pdf/-char/en 第37回日本観光研究学会全国大会学術論文集(2022年12月)p. 153- 157 (参照 2023-12-18)
【引用文献】
京都市情報館(2023.09.01)「観光収入の分かりやすい還元について」
https://www.city.kyoto.lg.jp/sogo/page/0000316682.html (参照 2023-12-19)
高坂晶子(2019)「求められる観光公害(オーバーツーリズム)への対応-持続可能な観光立国に向けて-」JRI レビューVol6,No67,p.100-101 (参照 2023-12-18)
奈良美和子、前川佳一 (2019.02.05)「京都のオーバーツーリズムの現状と観光地のデ・マーケティング」
https://www.gsm.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/KAFM-WJ014_nara_2019.pdf
p.23 (参照 2023-12-16)
日本政府観光局(2023.11.15)「2023年 訪日外客数・出国日本人数 (対2019年比) 」
https://www.jnto.go.jp/statistics/data/20231115_monthly.pdf (参照 2023-12-19)