GC学部の学生が学内外へ情報発信するGC学会の機関誌「Cosmos」の記事をお届けします。
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2024.05.20
グローバル・コミュニケーション学部
英語コース2年 両角彩
私は大学2年次に1年間ニュージーランドに留学していた。1学期に語学学校の卒業テストに無事合格すれば、2学期、3学期は自分の好きな授業をとることができる。私は1年間で6つの授業をとったが、一番興味を持った授業は“Tourism in Aotearoa New Zealand”というニュージーランドの観光学に関する授業である。ニュージーランドは観光地として非常に人気があり、観光産業が盛んだ。そのような国が観光に対してどのような取り組みをしているかについて非常に興味があった。本記事では、その授業の中で特に印象に残ったSNSと観光との関連性について、受講した授業内容をもとに考察していきたい。
観光客の意思決定において参考となるのが消費者の行動モデルである。Blackwell et al. (2006)これを観光客の行動に当てはめると、観光客は最初に観光に対する認識を高め、次に行きたい観光地に対しての情報検索を行うことになる。その後、いくつかの候補地を挙げ、個々の比較を通じて候補を1つに絞り、実際に旅行を行い(購入と消費)、旅行の経験を実際に得ること(消費後の評価)になる。この一連のプロセスのいずれにおいても、SNSは重大な役割を果たしている。
Leung et al. (2013)によると、近年ソーシャル・メディアの文化とそれによる情報共有が情報の非対称性と消費者の交渉力に大きな変化をもたらした。情報の非対称性とは、観光地の方が観光客よりも多くの情報を持つ状態のことである。これにより、InstagramやYouTubeなどにおける写真や動画は、視覚的に影響を与え、視聴者の興味を誘い、消費者が旅行に行きたくなるような可能性を上げる。SNSのプラットフォームを活用することで、私たちは、従来の紙媒体の観光案内ブックやパンフレットではなかなか手に入れにくいリアルな情報や現地の人たちや他の旅行者との繋がりを簡単に手に入れることができるようになった。
また、Leung et al. (2013, pp.8-9)によると、情報検索に関してはSNSの共有機能やコメント機能やハッシュタグ検索などが影響する。これらを通して、人々は様々な情報を検索することができる。によれば、観光客が目的地の決定後にホテルやレストランなどを選ぶ際、既にその場書に行った経験のある人の声が非常に重要になるため、彼らがソーシャルメディアを使う可能性が高い。カフェやレストランの情報をSNSで得た場合、その場所の雰囲気や料理の味、価格などを事前に知ることができる。これにより、現地に到着してから時間を無駄にすることなく、自分に合った場所を見つけることができる。
SNSが大きく影響するもう一つの段階は、旅行の経験を得ること(消費後の評価)である。SNSによって、旅行者は旅行の記録を永続的に残すことや、家族や友人と共有することを可能にする。Liu et al.(2020, p.32によると、観光客の経験に基づいたレストランや観光スポットなどの情報が他の観光客による旅行商品の選択や購買に影響を与える。このように観光客を消費者の行動モデルにあてて考えると、SNSは観光客にとってかなり重要な役割を果たしている。
観光に関するSNSの利用は、消費者だけではなく企業にも大きな影響があると考えられる。第一に、InstagramやFacebookなどのプラットフォームを使用することで、企業は顧客のニーズに関する深い理解を得ることができる。SNSでは、リアルタイムに情報発信ができるため、その時々に応じて顧客からのコメントなどによるフィードバックを受けることが可能である。そこから改善点を見つけ、企業は自社のサービスや観光地の魅力を積極的にアピールすることにより、新たな顧客を集めることができるようになる。さらに、新たな戦略を立てることで、より大きな利益を生み出す企業も増える可能性がある。
2020年初頭、ニュージーランドは、コロナ禍対策のため国境を封鎖した。その結果、観光業界は大きな打撃を受けた。しかし、今は徐々に観光客の数が戻り始めている。2021年には観光客数が18万人であったのに対して、2023年には253万人に回復した。私の考察として、ニュージーランドの観光客が回復した理由の1つは、自然環境への姿勢だと考える。ニュージーランドは自然体験のできるアクティビティがかなり多く、それを求めてやってくる観光客も少なくない。しかし私が実際観光地の湖を訪れて驚いたことが、湖周辺に対してゴミが1つも落ちていなかったことである。この理由の1つとしては、環境大国の1つであるニュージーランドが観光客に対してTiaki Promise(マオリ語:人と場所を守る)というスローガンを掲げ、観光客に環境に対する配慮を行うよう徹底しているからだと考えた。日本の観光地でも観光客のゴミの不法投棄が問題になっているが、ニュージーランドはそれを防ぐためにゴミ箱をいくつも設置していたり、半日に1回は清掃員がゴミを回収しに来ていた。この自然に対する姿勢がニュージーランドの観光客回復の理由の1つだろう。
日本もコロナ禍において観光業界に大きな打撃があったが、徐々に観光客数は回復している。それにより、SNSを活用し新メニュー開発を広告したり、アカウントをフォローすることで割引券を提供するなどのキャンペーンを行う店も多くなった。これにより、SNSは日本の観光地の魅力を大いに引き出し、観光客に来日のきっかけを作り出すだろう。世界中と簡単に繋がることができるSNSは、これからの観光業界において大きな役割を果たす重要な1つになる可能性が高い。
【参考文献】
Blackwell, R., D`Souza, C., Taghian, M., Miniard, P., & Engel, J. (2006). 『Consumer behaviour : an Asia Pacific approach』. Deakin University.
Leung, D., Law, R., van Hoof, H., & Buhalis, D. (2013). 「Social media in tourism and hospitality: a literature review」 『Journal of Travel & Tourism Marketing』 30巻, 1-2号, pp.3-22.
Liu, X., Mehraliyev, F., Liu, C., & Schuckert, M. (2020).「The roles of social media in tourists’ choices of travel components」『Tourist Studies』 20巻, 1号, pp.27–48.